鷲尾五部作はリアルタイムで平成ライダーやスーパー戦隊と一緒に見てきた。
女の子向けではありつつも男である自分が惹かれるものがあった。
そんな鷲尾5部作の総括とも一応兼ねており、プリキュアシリーズとして初のNHKで放送、『プリキュア5』の続編、それが『オトナプリキュア』である。
まず本作の良かったところを挙げていこう。
・夢原のぞみをはじめプリキュア達の成長した姿を公式で描いた点。
のぞみは学校の先生に、りんはアクセサリーデザイナー、うららは女優、かれんは医者といった風に『プリキュア5』で描写されていた将来の夢を叶えていたのが特徴だ。
『New Stage3』など将来の夢に触れた作品はあったが公式で成長した姿で夢を叶えた姿を見れるのが良かった。
・オ出てくるプリキュアが全員喋る点。
最近ではめっきり少なくなった「登場プリキュアが全員喋る」展開。今作ではちゃんとそれがある。
実質オールスターズ最終作である『オールスターズF』でさえ主人公+αくらいしか喋らなかったのには軽く失望していた。
だからこそプリキュア全員喋るのにはそれだけ意義が大きいのだ。
・ココのぞの結婚まで描いた点。
これが今作最大の良点だ。
無印からフラグを重ねていったのぞみとココが互いの気持ちに素直になりゴールインした。
それだけでもこの作品をやった意味は大きいと言えよう。ココのぞの結婚によってプリキュアにおいて他のカップリングでも結婚が解禁されたといっても過言ではない。ある意味転換点であると言えるだろう。
さて次は悪かった点だ。
・SDGsひいては環境問題がノイズすぎる。
NHK から枠をもらうにあたっての毎回のノルマであったことはもちろん承知している。
しかしだ。何もココのぞ結婚後のラストカットで後味悪くする必要はなかっただろと言いたい。
「これからみんなで意識変えて環境問題に取り組んでいこうね」というのが12話Bパートまでの話だ。そこで環境問題啓発の時間は終わったのではないのか?
夜の街でチンピラがウェイウェイ騒ぎながらポイ捨てする。そのポイ捨てしたゴミからシャドウか何かに誘発されて怪しく電気が走ってフェードアウト。
何のカットだこれ。
続編匂わせるにしてももっとやり方あっただろ。
ココのぞ結婚の祝福ムードまで台無しになってる。
最後のカットは環境問題で締めろというNHKからの圧でもあったのか。
自分たちが直前まで何書いてたのか忘れたとしか思えない構成だった。
環境問題とココのぞの結婚の要素が明らかに相性悪かった、そうとしか思えないラストだった。
・ナツこまの描写がほとんどない。
上に書いた通りココのぞ自体は文句なしの描写、シロうらは7話でかれミルは3話でそれぞれカップリング回があったにも関わらずナツこまだけ無かった。
こまちのメイン回でナッツを同席させるなど尺とタイミングはあったはずだが、意図的に外したのかと邪推したくなるほどほとんど絡みがなかったのが現実だ。
「女性の自立に男性はいらない」それ自体は大いに結構。それがプリキュアの原点なんだからそこに文句はない。だが、他のカップリングは揃っているのにナツこまだけないのはどういうことなのか。
全12話しかなく1人につきメイン回は1話もない。かれんとくるみのメイン回は抱き合わせだったのでそれも伺える。
製作陣がライブ感で作ってタイミングがなかったと言うなら何をやっていたのかという話になる。
こまちのメイン回は8話で、そこしかタイミングは無かったのだからそこでナツこまをやるべきだった。そこでやらなかったということはプロデューサーと脚本家は最初からナツこまをする気がなかったとしか残念ながら結論せざるを得ない。
・くるみが総理大臣になる。
最終回でいきなり出てきた設定。
ナッツの「ミルクはお世話役に収まらない器」という発言こそあったものの、くるみの夢は「準」の文字が取れたお世話役になることじゃなかったのか?
鷲尾Pのインタビューでくるみを総理大臣にしたのは「女性の自立がテーマだから」だけである。
そこに美々野くるみがこれまでやってきたことは無かったのではないか。
パルミエ王国の王政の兼ね合いにツッコミが入ることもなく本編が終わったので何がしたかったのとしか言えない。
・S⭐︎Sの扱いが悪い。
「20周年というタイミングでS⭐︎Sを出せるタイミングは今しかない。」鷲尾Pのその考えは分かる。私も咲と舞のその後が見られたのは嬉しかった。
だが12話といういつものプリキュアより限られた尺でS⭐︎Sを描写するには無理があった。
咲も舞も我々の顔も名前も知らない男(咲の婚約者はたっくんという名前だったが)といつの間にか関係持ってて咲は婚約。舞は破局。
咲に関しては和也どうなったのって言いたい。少なくとも『S⭐︎S』本編じゃ少なからず関係性を積み重ねてたのに何の音沙汰も無しはあんまりだと思う。
音沙汰がなかったのは和也だけではない。みのりやフラッピたち妖精も含まれる。
パンパカパンの店と咲の両親まで出しておいてみのりだけまるで最初からいなかったかのような扱いだった。
咲が20代半ばなので、みのりは高校生〜大学生くらいの年齢だ。寮に住み込みならそう言えばいいし実家暮らしなら登場させることも出来たはずだ。
なのに尺がないからか一切出てこない有様だった。
そして1番扱いが酷いのがフラッピたち妖精だ。
人間の世界と妖精の世界が分断されてる訳でもないのに全く出てこなかった。
おそらく「プリキュア5がキュアモがないから命懸けで変身するシリアスな展開」に持っていきたいがためにフラッピ達の出番が無くなったとしか思えない。(そもそもこれをやりたいがために大人になるとキュアモが消えるというのも意味不明だが)
擁護派の人が言う「松来未祐さんが亡くなってチョッピが喋れないから」。
それを言うならフラッピが代わりに喋ればいいだけの話ではないのか?もしくはテレビ本編の音声をバンクとして流用するとかいくらでも対策出来たはずだ。
けれども『オトナ』本編では和也もみのりも妖精達も出てこない理由も語られず終わってしまったのだ。
尺が無いからを理由にするなら最初から出すなと言いたい。
・何のために初代を出したのか。
極め付けがこれだろう。
11話のラストで苦戦するドリーム達をいきなり現れて颯爽と助けるブラックとホワイト。
リアルタイム世代だし全く喜ばないかと言われれば嘘になるよ。でも今じゃないだろ。
しかもこのクライマックスの流れで初代を出すことは鷲尾P主導であるとアニメディア2月号にも記載されていたことである。
11人とも自分の子供みたいなものだがらせっかくだし全員出したかった、その気持ちはわかる。しかしそれをやるなら最初からなぎさ、ほのか、ひかりも出せという話だ。
それでちょっと戦闘シーンに顔出ししただけで後は全く出てこない。話そうとしたところで都合よくドリームがタイムフラワーの影響でぶっ倒れたので今のなぎさ達についてはお流れになった。
一言あったのは「なぎさはアマゾン、ほのかは北極に行ってる」とだけだ。ふたりとも何故が環境活動家ということになってる。
意味がわからない。無印と『Max Heart』でそんな話は一切してないでしょ。
環境問題やりたいからって雑にキャラを消費してるとしか思えない。
しかもひかりに関しては触れることさえしない。
なぎさ達だけで1クール回せるポテンシャルは十分にあったよ。
クライマックスにポッと出て終わったのが残念でしかない。
ここまできて全ての問題はこれに集約される。
尺がなさすぎる。
そもそも最初はプリキュア5の続編として始まったはずだ。まほプリ2の発表と同時にそう発表されたのを覚えている。
それがいつの間にか咲と舞が出てきて、終盤で初代が出てきて、ただでさえ少ない尺に詰め込みすぎなのである。
NHKから1クールしか確保できなかったのなら1クールで書ける物語に収めるべきだった。
プリキュア5だけなら十分収めることが出来たはずだ。咲と舞の尺をナツこまとサンクルミエール学園のOG回で1話ずつ使う。それだけで十分掘り下げができた。
プリキュア5も『S⭐︎S』も初代も単体で1クールで収まらないほどの密度がある作品なのだ。
それを1クールで無理矢理収めようとして失敗したのが『オトナプリキュア』であると私は考える。
こんなこと邪推したくもないが、今のプリキュア製作陣はいい加減に作ることに慣れすぎてまともな作品を作ることが出来なくなってるのではないか?そんな風にも考えてしまう。そんなことあってほしくはないけれど。
以上が私が『オトナプリキュア』を見終わった感想になる。
期待してただけに想像よりも酷いものを見せられたので失望も大きい。
もし続編やるならプロデューサーと脚本家はもっとしっかりした人にやってほしい。
今のところ『オトナプリキュア』の作った意味はこれだけだ。
ココのぞ結婚おめでとう。
以上。