王様戦隊キングオージャー 総括

 『暴太郎戦隊ドンブラザーズ』の勢いを継いで始まった本作。

 ゼロワンから4年ぶり、戦隊は『キョウリュウジャー』以来10年ぶりとなる大森プロデューサー、初参加の脚本家高野水登、『エグゼイド』のクロノス初登場回以降演出的に凝った印象があり作家性の強い上堀内監督という布陣。

 

 

 まずはよかったところから述べようか。

 3つある。

 1つ目は一年間LEDウォールを用いて撮影を続けたこと。

 LEDウォールの説明はどんなものかキングオージャーを見続けた視聴者なら分かると思うので省略しよう。

 1年間撮影を続けたことでスタッフのノウハウもかなり蓄積されたことだろう。

 東映的にもキングオージャーはLEDウォールの試金石の意味もあっただろう。

 ここで得た経験は間違いなく今後の東映特撮作品においてプラスに働いてくると思うのでそこは素直に評価したい。お疲れ様でした。

 

 2つ目は1年間ファンタジー路線を貫いたことだ。

 これまでもファンタジー系戦隊はいくつもあったが(マジレン、ゴセイ、リュウソウなど)ロケ地など撮影の都合で我々の住む現実世界をメイン舞台とした構成にしなければならない制約があった。

 しかし今作においてはグリーンバックの技術の進化や先に述べたLEDウォールの導入によって異世界描写で撮影を一年間続けることができた。(キョウリュウジャーコラボは除く)

 これにより今後のライダーや戦隊において異世界描写を撮るノウハウが格段に増したと言えるだろう。

 この取り組みも素直に評価したい。

 

 3つ目はキョウリュウジャーコラボだ。

 放送から10年を迎える『獣電戦隊キョウリュウジャー』とのコラボ回。

 イアン、ノッさん、ソウジ、アミィ、空蝉丸がキャスト本人が出演しており、人気俳優となった竜星涼も短い時間ながら参加しており気合の入った2話となっている。

 キョウリュウジャーらしく努力・友情・勝利という構成でオリジナルのデーボス怪人も登場してちゃんとキョウリュウジャーしているのが印象的だった。

 キョウリュウジャー世界で何があったかはVシネで明らかになるようだ。

 

 

 次に悪かったところを述べていく。

 1つ目はあまりにも作品の構成がガバガバな作りになっていること。

 私が把握している限り紹介していきたい。

 まずはバグナラクの扱いについて。

 序盤デズナラクが「人間によって棲家を地底まで追いやらられた」という設定のはず。

 元々チキューに住む先住民という設定だったはずがいつの間にかダグデドが無理矢理連れてきた移住民という設定になっている。

 棲家を追いやられたデズナラクの怒りは何だったのか。

 

 また1章で人間とバグナラクは互いを傷つけないという約束で和解したはずだ。

 バグナラクも人間同様の扱いを受けることになると思っていた。

 なのに2章に入っても平然と人間に牙を向くバグナラクがやたら多いし人間側も普通にバグナラクを攻撃する。最終決戦は特にそう。

 グローディ(ダグデド)の能力で操られゾンビ化してるならそれでいい。だが特に説明のない個体は外見で操られてるかどうか識別することは不可能なので見分けようがない。

 おまけに普通にチキュー語喋る個体もいるから「お前単純に裏切ってるだけなんじゃないの?」っていうやつもいる。

 外からはゾンビか裏切りかその判断ができないのが致命的な欠陥になっている。

 せめてジェラミーが、ゾンビ化してる個体なら「すまない。君の命を奪うことを許しておくれ...」とか裏切り者なら「人間とバグナラクの共存を脅かす輩はこの私が許さない」とか一言言ってくれるだけでも操られてるのか裏切り者か判断できるしバグナラク周りの配慮ができたのだが製作陣はそこに気づかなかったのか?

 見分けがつくように小さいバッジのような小道具数点用意するだけでこの辺の描写はかなり変わってくるのだがそんな予算さえもなかったのか?あるいはそんなことに気遣う気もなかったのか?

 半年かけて「バグナラクは被害者。共にダグデドと戦う仲間」という結論を出したはずなのにそれすらおざなりになったのはただ単に残念だ。最終回の決め台詞も空回りしてしまうだけだった。

 

 次にハーカバーカについて。

 劇場版で初登場してからその後再登場させる舞台というのは分かる。

 ただ死人を一時的にでもこの世に復活させることができるのならもっと早くできたのではないか。

 最終章だけ出すなら、ただ「最終決戦で全キャラ出したい」という願望のためにそれまでの積み重ねを台無しにしたとしか思えない。

 カメジムに暗殺されたボシマールやデズナラクはやられてすぐハーカバーカから復活して事の発端を伝えるなり加勢するなりすればカメジムの擬態に一矢報いたりすることもできたはずだ。

 逆に生きてるカメジムをハーカバーカに連れて行っていいのか?

 それができるなら五道化全員幽閉しておけという話になる。

 

 先代女王のカーラスやイロキも早くに復活しておけばここまで事態が拗れることもなかっただろう。

 そもそも先代がキングオージャーになれるということ事態おかしい話だ。

 オージャカリバーは公式設定でヤンマが作ったと書いてある。

 なのにスラム育ちのヤンマが10代入る前で、まだンコソパ王の地位を手に入れてシュゴッダムに取り入る前からオージャカリバーが存在していたということになる。

 ンコソパがスラムにいた頃の回想の時点でヤンマは今の同じ姿だったので近年の出来事というのがわかる。

 先代が変身するという絵面のために時系列も設定もガン無視しているいい例だ。

 

 2つ目は設定ブレブレで魅力のないキャラたち。

 ギラは最後まで邪悪の王botでまるで成長がない。レインボージュルリラの件も食わされて兵器扱いされているだけであり主人公として主体性がない。ずっと何かトラブルに巻き込まれているだけだ。2章でシュゴッダム国王となってからも側近と孤児院時代の子供としかまともに話していない。民を束ねる王とは何だったのか。

 ヤンマは国が滅びた直後に呑気に合コン。順番が逆だろう。ンコソパを取り戻す展開も何話も経ってから思い出したようにやってるので内心ンコソパのことそんなに大事に思ってないなと勘ぐりたくなる。ヤンマに関しては王になるべき器でない奴が王をやっているという描写ばかりだ。

 ヒメノは医者として生命の大事さを解いているにも関わらず不死殺しの力をギラ相手に試し切りしようとする。言動が矛盾している。真っ当な医者キャラとして1番やっちゃいけないことだろ。

 リタは謎アイドル。高野水登の自己満足でしかない。結局潜入中に何が分かったのか。性別不詳のはずがフリフリのアイドル衣装着せてるからにはやはり女の子なんだな?と邪推もしてしまう。

 カグラギは泥に塗れると自分で言っておきながらなんだかんだ決して自分の手は汚さない。ニチアサの制約なのか頭のキレる策士キャラくらいの扱いだった。

 ジェラミーは長生きしたいのか早死にしたいのかブレブレ。2000年かけて償いたいのか仲間と一緒に生涯を終えたいのか、頼むから一貫性を持ってくれ。

 また、ゾンビ化したバグナラクに対して何も思うことはなかったのか。仲間という割には仲間意識が空虚だった。

 

 以上のようにキャラクターが生きておらず都合のいいように喋り動く人形でしかなかった。

 どのキャラも一貫性も魅力も欠けるのでキャラものの作品としても弱い。

 

 3つ目は販促の悪さ。

 驚くほどロボが出てこなかった。一度出てから次に出るのが1ヶ月後とか何回もある。ドンブラザーズでも長くても3週間(それも一度きり)なのでどう考えてもロボの販促が緩すぎる。

 ドンブラの時に最終回でロボ出さないために白倉がバンダイに許可取ったという話があるくらいロボの出す出さないはバンダイ的にも厳しいはず。

 他にもキングオージャーの販促は不可解な点が多い。

 クリスマス商戦の目玉だと思われた一般販売のキョウリュウジンも本編では3回しか出てこなかった。

 4号ロボ兼キョウリュウジャーファンへの目配せの意味も強いはずなのにクリスマス商戦にしてはアッサリすぎる扱いだ。

 バンダイがどういう販促スケジュール組んで東映側の要望を呑んでいたのかどこかのインタビューで読んでみたい。

 

 

 4つ目は悪役贔屓による間延びの悪さとヘイトの管理の拙さ。

 これに関しては大森P、プロデューサー何回目だって言いたくなるくらい酷い。

 テレビ本編だけでもキョウリュウ、ドライブ、エグゼイド、ビルド、ゼロワン。映画や番外編含めれば相応の数を経験しているはずだ。

 なのに未だに上記の問題が改善されてるように見えない。むしろ悪化している。最近『ドライブ』を完走したばかりなのでそういった要素が余計そう見える。

 まず悪役贔屓。『ドライブ』のロイミュードの3幹部や仁良が象徴的だろう。悪役を贔屓するあまりヒーロー番組として爽快感に欠ける、いちいち感じの悪いシーンが差し込まれる、それらを溜めたことによるカタルシスも大してない。

 大森Pの作風はそもそもヒーロー番組と相性が悪い。

 今回のキングオージャーはダグデドと五道化がそれに該当する。

 ラスボスと大幹部なので容易に倒せないからキングオージャーがボコボコにされてもそれで今回は終わりみたいな回が目立つ。

 そして案の定終盤に入って在庫一掃セールみたいに五道化が倒され始めても大してスカッとはしない。倒され方が一般の怪人の倒され方と大して変わらんので特別感もない。

 ラスボス格のダグデドも初登場から舐めプの連続で一度でも本気を出したことはあるのだろうか。

 ダグデドが本気を出した時点で最終回になってしまうなら登場を遅らせるか、本気を出させない理由づけをしなければならない。

 しかしそのどちらも行われることはなく本編中盤から登場したが大した理由もなく舐めプを続けるという有様。

 どれだけ戦隊陣営が命懸けで頑張ったところで「でもダグデドが本気出してないから助かってるんだよな」としか思わない。

 案の定最終回でもダグデドは本気は出さなかった。最後まで舐めプするラスボスは聞いたことがない。これも史上初か?

 以上のようにダグデドのキャラ付けは失敗としかいえない。

 キングオージャーはこんな有様になったのは高野水登の起用と自身の課題を解決することもなく放置した大森Pのせいだからとしか言えないと思う。

 

 

 キングオージャー、最初はLEDウォールを用いて大河ドラマ形式のファンタジー戦隊が見れると期待していただけにガッカリである。

 自分が見てきた戦隊の中では下から数えた方が早い酷さだった。

 チャレンジ精神は評価するが、肝心の中身が伴っていない番組だった。

 大森Pには自身の課題を克服するよう努力してほしい。

 正直今のモチベーションでは10thやったとしても観に行くかどうかは自信がない。

 それくらいの番組だったことは言っておきたい。

 

 3月から始まる『爆上戦隊ブンブンジャー』楽しみだ。