仮面ライダービルド 総括 〜連続ドラマのフィニッシュ〜

 平成ライダー19作目。クウガから続いた平成ライダーラソンも気付けば残り1作に。

 

 『ビルド』、メインキャラのワチャワチャしたノリやシリアス調の重いストーリーなど他のライダーにはない特徴はあるものの、その後の大森Pの作品に色濃く反映されている要素もあり良くも悪くも大森Pの作風の作品だったなという印象。

 

 桐生戦兎は作られたヒーローだったっていうのはくどいくらい本編では強調されていた描写だった。このスパルタとも言える追い込みが最終回や『平ジェネFOREVER』で活きてくるのは感慨深い。

 放送前から戦兎と万丈のコンビはベストマッチになるというのも強調されており、互いに背中を押さえ押さえられる仲なのが良い。

 「Be The One」はエンディングに流すと爽やかかつエモーショナルに締められるので、最終回で再会したタイミングで流れるとものすごくいい終わり方をしたと見せられるのでやはりズルい曲。

 

 

 ここからは割と否定的な意見が多いので「ビルド最高!マジ神作!」と思ってる人はここで引き返してほしい。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 それでは以下気になったこと4点挙げていく。

 ①エボルト

 ②ジーニアスフォーム

 ③派生フォーム

 ④身代要求

 

①エボルト

 ほとんどの問題はここに集約されそうなくらいデカい一点。

 戦兎を作ったのもエボルト、スカイウォールの惨劇を始めたのもエボルト、それで3国間の戦争が始まるよう仕向けたのもエボルト。

 プロジェクトビルドもエボルトのための計画なので戦兎たちは最初から手のひらの上でしかなかったという結果に。この辺の「最大の目的がとあるキャラのための野望」というのはキンオーの元祖なのが分かる。

 今作のきっかけはほとんどエボルトのせいと言っていいくらい関わってきてる。(なお劇場版ではこの設定すら梯子が外されている。)

 TV本編『ビルド』の話のメインはエボルトだと言えるだろう。

 だから今作の頭のキレるキャラ、トップクラスだしブラックホールフォームになった時点で戦闘力も最強クラス。ビルドたち4人がかりでやっと勝てるかどうかってレベルの相手だ。

 フェーズ1ですらローグやマッドローグを重症レベルでボコボコに出来るんだからタチが悪い。

 44話時点でこれでも舐めプしているというのだから勘弁してほしい。最強キャラが舐めプし続けないと話が成立しないのなら構成に欠点があるでしょって言いたくなる。この辺もキンオーのダグデドの元祖だった。

 ブラックホールフォームもフェーズ4であってファイナルフェーズとは明記されてない。

 設定上はさらに上があるのは分かっていたけどまさか6年後にホントに上位形態が出るとは思ってもなかったが。

 エボルト一強になるくらいなら仮面ライダーやベルナージュにもっとパワーバランスを割り振ってもよかったはず。

 西都編は手違いで短縮されたって聞いたことがあるけど、どのみちローグにボコられるのが長くなるかエボルトにボコられるのが長くなるかの違いしかなかったんじゃないのって思う。

 

 エボルトが感情を手に入れる展開、それ自体はよくあることなんだが問題はそれ以前から感情表現がやたら上手い。

 38話のエボルトとかこの時点で思いっきり笑ってるので。

 あくまで模倣だと本人は言うが、言われないと分からないレベルの上手さなので感情取得前後で違いがあんまり分からないのはシンプルに勿体無い。もっと寡黙なキャラにするとかやりようはあったのにね。

 

 本物の石動惣一は結局大した出番が無かったのも残念。

 エボルトに石動の経歴と前川泰之のビジュアルを与える存在でしかなかったんだなあ…。

 

 前川さん、金尾さんの発言からスタークがエボルトになってラスボスにまで昇格したのは後付けのようなので、結果論でしかないがラスボスになるやつが番組初期から最後まで好き勝手やっているのを見せつけられるということになったのは大森Pの悪癖が出ていたなと思う。

 

 

ジーニアスフォーム

 39話から登場したいわゆる最強フォーム。だがやたら活躍が薄い。

 初陣で圧倒したマッドローグにすら次第に苦戦するようになるのは最強フォームとしては大分シブい味。

 エボルト一強にしないと話が続かないので、ジーニアスフォームになれるようになったからと言ってエボルト倒せるようになる訳じゃないのが凄い。40話ではフェーズ4にさせないのが勝利の法則と言わせてる有様。

 正直「バンダイから出せって言われたから出しました」感さえある。

 ハイパームテキが文字通り無敵の活躍をしたからその差別化としてあんまり強くない仕様にしたんだろうがその結果がリデコ怪人を3回くらいボコって後はエボルトに苦戦を強いられる結果に終わったのは残念だった。

 劇場版でもそんなに強さを発揮できたわけではないので印象も薄い最強フォームだったなと。

 エグゼイドくらいからそうだが最強フォームの登場が遅すぎて(ラスト10話からとか)尺と予算が少なくなってる状況なのでどうやったって出番が限られる。

 ムテキみたいにひたすら強さを盛るかジーニアスみたいに地味な結果に終わるかの2択しかないイメージ。

 この辺は登場時期を早めるなどして対策してほしい。

 じゃないと残り2ヶ月売り逃げするためのフォームになってしまうから。

 

 

③派生フォーム

 似たような問題として挙げられるのが派生フォームだ。

 クリスマス商戦に9フォーム、2クール目から更に5フォーム出してる。明らかに多すぎ。

 他のライダーでは流用もできないのでビルド1人に集中しているのも問題。

 派生フォームが多いのは平成2期でも恒例ではあるがビルドはその中でも悪化してる部類に入ると思う。

 26話くらいを最後に戦兎の変身する派生フォームは出番すら無くなってるので年末までに売り逃げするための存在なんじゃないかとさえ疑う。

 14話で強化フォームが出てるので作中の賞味期限もやたら短い。

 予算を掛けて大量に作ったはいいが2〜3回変身したら二度と使われなくなったフォームも多い。

 そのせいで怪人のスーツがやたら少なく前述したエボルトで尺をひたすら稼がなければいけない事態になっている。

 気軽に倒せる新規スマッシュをもっと出せれば、作品も違うものになったであろう。

 

 ビルドの派生フォームのスーツはもっと有効活用できたはずだと思っている。

 例えば後のジャマトライダーみたいに「難波重工が疑似的にライダーシステムを再現した」とか理屈付けてアトラク用のビルドを改造か新規で敵キャラとして派生フォームを出すって方法もあったはず。

 そうすればエボルトで引き延ばす展開もいくらか軽減できたし毎週倒せる敵キャラの数を増やすことも出来ただろう。

 今のライダーの玩具の売り方は仕方ないとしても作ったスーツを有効活用する方法はあっただけに勿体無いとさえ思う。

 

 

④身代要求

 文字通り人質(または物)を取って何かを要求すること。

 パンドラボックスを巡る戦いや三国に分かれていることが関係しているからか、やたらこの展開が多い。

 把握しているだけで、

 8話 幻徳が葛城巧の母に(ニセの)息子の遺書を渡す代わりにプロジェクトビルドのデータを要求。

 23話 鷲尾兄弟が黄羽を人質に取って一海の身柄を要求。

 27話 難波重工が鍋島の家族を人質に紗羽にスパイとして働くよう要求。

 29話 鷲尾雷(弟の方)が美空を人質にボトルを要求。

 33話 スタークが東都首相を人質にエボルドライバーを要求。

 34話 エボルトが戦兎を人質にパンドラボックスとボトルを要求。

 37話 エボルトが戦兎を人質にパンドラボックスを要求。

 劇場版 伊能が万丈を人質にパンドラボックスを要求。

 Vシネグリス ダウンフォールが美空を人質に白いパンドラパネルを要求。

 ...とまあ把握してるだけでこれだけある。

 住んでる場所の違うキャラを会わせるにはこうするしかないというのは分かるが、同じことの繰り返しと言われても仕方ない気はする。

 さらに悪役側(主にエボルト)がやるので戦兎側は一向に状況が良くならない。

 エボルトが強すぎるのもあってほとんど挽回できないまま状況が悪化していくという展開が続くので見ていてストレスの溜まる展開ではあった。

 『エグゼイド』の頃は患者を治すためにドクターが現場に駆けつけ治療するという展開が職業上何度でも使えたが、『ビルド』はこうはいかない。

 結果的に同じことを繰り返しヒーロー側がやられるがままに話が転がっていくという状況になったのである。

 この辺も後の大森Pの作品でも見受けられる展開だ。

 結果論だが『ビルド』はなるべくしてこうなったのが分かる。

 

 

 

平成ジェネレーションズFOREVER 

 平成ライダー最後の冬映画。

 クウガからジオウまでの総決算となる映画。

 やはり最高だった。

 リアルタイムで観に行ったが改めて見返しても良かった。

 比較的真面目にライダー集合映画作れるんだなあって感心したのを覚えてる。

 

 話は佐藤健が出るということもあってか電王に比重が寄っていた。

 記憶がある限りライダーは消えないというのはメタ的な意味も込められているが電王だからこそ出せるメッセージだったなと。 

 

 そしてやはり佐藤健のサプライズ登場は驚く。

 まさか出てくれるとは思ってなかったので劇場内もザワついたのを覚えてる。

 よく聞くとU良太郎だがウラタロスの声は抑えめで野上良太郎佐藤健の地声で演技してるのが分かる。

 演技もどちらかといえばU良太郎というよりウラタロス混じりの良太郎という体になっており「今の佐藤健ができる良太郎」というキャラに仕上がっている。

 最後のモモタロスとの掛け合いは電王と佐藤健を見てきたからこそ分かるものがあり感慨深かった。

 

 反面クウガとダブルの扱いは予想通りの内容だった。

 オダギリジョーを呼ばないのは分かっていたとはいえ出てきたのはミイラ状態のリクだけ。

 白倉Pであってもクウガの扱いは聖域なのだと察せられる。

 でもオダギリジョーが音声バンクに許諾を出してくれたという事実は嬉しかった。

 ダブルは桐山漣菅田将暉をどうにか呼びたかった痕跡が所々見える。

 風麺のマスターが渡したダブルウォッチを渡す役割は翔太郎だっただろうしウォズがやった地球の本棚は言わずもがなフィリップの役割だからだ。

 アナザーダブルが正体不明だったのも2人を呼べなかった名残と考えれば辻褄が合う。

 ダブルでやりたかったネタは9割ボツになったのだろう。

 2人を呼べた平ジェネFOREVERも見てみたかったな〜!

 

 これはあくまで推測だが物語中盤でソウゴがやるドライブの推理パートが挟まったのは竹内涼真も呼ぶ予定だったのではないだろうか。

 結果的には無理だったのでソウゴで代役でこなすことになったと推測する。

 

 ビルドとしては今作のテーマである虚構のヒーローと戦兎が「作られた存在」であることと掛け合わせてて戦兎がソウゴの良き先輩になっていたのが感慨深かった。

 伊達にTV本編や劇場版で偽りのヒーロー呼ばわりされ続けて、スパルタ教育みたいに作用してたのはビルドならではだと思う。

 そのおかげで今作の戦兎はブレることなく頼もしい先輩ライダーしてたのはよかった。

 

 万丈ら他のビルドキャラはVシネに続くのもあってあまり大々的に動かせなかったのは伝わる。

 「ビルドの一海≒キバの音也」ネタは笑ったけど。

 

 比較的真面目に作っていたこともあって結構好きなライダー映画ではあるんだよな。

 平ジェネFOREVER が平成ライダー最後の冬映画でよかったよ。

 

 

 

Vシネマ仮面ライダークローズ』

 テレビ本編後の話。

 正直なんでやったのか不明レベルで酷かった。

 あれだけテレビ本編で尺をかけて苦労して倒したエボルトがあっさり復活する(というか完全に倒したことになってなかった。)し無から生えた女が急に万丈の女面してくるし皆の記憶戻って最終回の余韻台無しになるしで、新世界作ってここまでやってきたことは何だったのかという酷さだった。

 ジーニアスボトルがいつの間にか復活しているがもはや気にならないレベル。

 正直ライダーVシネでトップクラスの蛇足作だと思う。

 

 要点を3つ挙げて説明していこう。

 ①エボルト復活

 1番デカい問題点。

 テレビ本編であれだけ時間かけてやってきたことが無駄に終わった。

 「死んだ一海達が生き返ったんだからいいじゃん」なんて意見が出てくるだろうがVシネラストでエボルトはまた戻ってくると言っている。

 エボルト復活はテレビ本編最終章をもう一回やろうと言ってるのと同じである。

 大森Pの悪い癖だがネタの引き出しが異様に少ない。

 ネタを省エネしたいのかホントにネタがないのかは分からんがとにかく同じことを繰り返したがる。

 エボルトの暗躍と無双だけで何回繰り返したことか。

 やっと終わったと思ったらこれだよ。

 なおエボルトの決着は小説で着けるらしいがその小説は5年経っても未だに音沙汰がない。

 挙句アウトサイダーズでパワーアップして帰ってくるのだから手のつけようがない。

 どう収集つけんのこれ。

  

 ②無から生えた女

 今まで1ミリも出てこなかったのにメインヒロインみたいに扱われるライダーVシネ女キャラの総称。

 今作では馬渕由衣がそれに当たる。

 万丈はテレビ本編で香澄がいて、戦兎とベストマッチだとあれだけ言っておいていきなり出てきた女をあてがうというのが今作の無神経なところだなあと。

 しかも旧世界でクローズ=万丈に助けてもらえなかったからの憎んでいたのにキリバス戦で一回庇ってもらったから急に惚れてキス、押しかけ女房みたいにラストで出張ってくるのは意味分からん。

 キスの時点では意識不明の教え子達が元に戻ったわけでもないので色々描写すっ飛ばして急に惚れたとしたか言いようがない。

 1時間で無理やり纏めようとした結果あらゆる部分がおかしくなった感じ。

 誰が推薦したのかは分からんがこのキャラいらなかったよな。

 

 ③最終回の新世界創造を経て

 新世界創造によって戦兎とエボルトの遺伝子が入った万丈のことは誰も覚えていないというのが最終回の肝心な部分。

 誰も覚えていなくても2人が互いに覚えているから大丈夫というのがテレビ本編最終回と『平ジェネFOREVER』の大事なところだったのにそれを「人体実験組は記憶戻りました〜!めでたしめでたし」みたいにしたのも無粋。

 じゃああの最終回何だったんだよって話。

 「ロストボトル作るための被験者も記憶覚えてました。実験の怪我は治りません。子供達も意識不明のままです。」これも何がしたかったのか。新世界作ったのは何だったのか。

 こう言ってても最終回結構好きなんだよ。一海や幻徳やみんなの犠牲を乗り越えて新世界創って誰も覚えてない中で戦兎と万丈は互いのこと覚えながら再会して『Be The One』流れてハッピーエンド。

 この余韻が台無し。

 Vシネ『クローズ』、今までで1番蛇足なライダーVシネでした。

 

 

Vシネマ仮面ライダーグリス』

 その『クローズ』の続編。

 前作が酷かったのもあって今作は結構良く思えた。

 エボルト問題を除けばいい感じに纏まったのではないだろうか。

 以下良点と悪点を述べていく。

 

 良かったところ

 ①地球内日本国外のテロリストというブラッド族関係ない新たな敵を出してきたのは素直に良かった。新しいネタあるじゃん。

 ②前作で記憶が戻ったとはいえテレビ本編を踏まえたメインキャラの活躍が見れたのも良かった。

 ③グリスブリザードが真っ当な強化フォームとして出てきたのもよかった。テレビ本編の出方がイレギュラーなだけでグリスブリザード自体に死のリスクはないですからね。


 悪かったところ

 ①さすがにまた身代要求してきたのは勘弁してほしい。何度目だ、身代要求。

 ②前作で出てきた無から生えた女は今回一切出てこない。エボルトも出てこない。

 ③ファイナルファンタジー。テレビ本編からフラグのあった一海と美空はともかくホテルネタやりたいためにとりあえずくっつけた感ある幻徳と紗和は何とかならんかったのかとは思う。


 ビルドシリーズは今作で一区切り。

 前作削って今作からVシネやった方が良かったんじゃねえのって思う。

 ところで小説はいつ出るんですかね?

 

 

 

 『仮面ライダービルド』、他の作品にはない独自の魅力はあるが、それはそれとして『エグゼイド』でよかったところをことごとく削ぎ落としていったような作品でそこは残念だった。

 2作連続プロデュースをすることになった大森Pや全話描ききった武藤将吾氏の頑張りは評価するが、代表戦や身代要求など同じ展開の連続で面白みに欠ける冗長性のある作品だった。

 エボルト復活などVシネの蛇足感は歴代一の出来栄え。

 エボルトとの決着はいつ着けるだろうか。

 とりあえず小説は出してほしい。

 そして10周年でVシネやってくれれば嬉しいんだけど。

 まあ気長に待ちます。