仮面ライダーキバ 感想総括

 平成ライダー9作目『仮面ライダーキバ』全話視聴した。

 渡と音也、バイオリン「ブラッディローズ」を通して現代と過去で紡がれる親子の物語だった。

 過去で音也の手によって改心したファンガイアや音也が教えを説いた少女だった女性が現代で渡の導きを手助けしたりと過去の出来事が現代に繋がるのは見ていて面白かった。

 中盤名護啓介が真夜に渡したボタンによってタイムスリップした渡が息子だと判明する下りの伏線の張り方も見事だと思う。

 私にとってキバはリアルタイムで見たことはあるが難しい話をしていた印象だった。といっても早起きできるような子供ではなく、録画できた回を途切れ途切れに見ていたので無理もないのだが。けどバッシャーマグナムで遊んでいたことを覚えてるくらいには元々好きではあった。

 明るめでワチャワチャした印象の電王の後ということもあり重くしっとり、時にはドロドロしたキバは相対的にウケが悪い作品に見えてしまったのは事実だろう。

 しかし優れた点も多かったのは事実だ。

 ライダーやファンガイアのデザインは秀逸で、一つ一つのスーツがまるで芸術品のような仕上がりで見ていて惚れ惚れしていた。

 音楽もバイオリンを使ったクラシック音楽のようなBGMの数々は耳が癒される。時折披露されるバイオリンの演奏は作品に深みを持たせてくれる。

 メイン脚本の井上敏樹氏の書く、「変だけど良いやつ」というキャラの数々は今作も見事な面白さを放っていた。

この世アレルギーの紅渡、ボタン集めに執着する名護啓介、バイオリンの腕は一流ながらも派手な生活を送る渡の父の紅音也といった記号に留まらないキャラ作りは秀逸。

 一方で電王人気に乗っかって上手くいかなかった要素が目立った印象もある。

 ガルルたちアームズモンスターの存在、派生フォームの不遇感、ブロンブースターといった巨大CGメカの出番などだ。

 まずアームズモンスター。

 次狼(=ガルル)は男の色気を放つコーヒー愛好家という一方でウルフェン族という怪物である。過去編で麻生ゆりを巡る音也の恋のライバルという立ち位置。演じる松田賢二さんの演技もあり深みのあるキャラに仕上がっていたと思う。

 少年のような出で立ちのラモン(=バッシャー)と長身の男の力(=ドッガ)は一応キャラ付けはちゃんとされてるものの物語にはほとんど絡まず、次狼とその仲間たちという立ち位置から大きく化けることは無かった印象だ。ドッガは合コン回で出番があったくらいでそれ以降は目立った活躍は無かった。

 イマジンズを意識したけど入れた以上に上手く活用できたかは疑問ではある。

 次に派生フォーム。ガルルフォームは5回、バッシャーフォームは4回、ドッガフォームは2回といずれも片手で数えられるくらいしか変身していない。そのうち怪人を撃破した数が1回、1回、2回とどれも少ない。 

 原因は24話でエンペラーフォーム登場以降キバの派生フォームに焦点が当たらなくなったからである。本来の基本フォームという設定的にエンペラーフォームを毎回出すのが自然ではあるが、電王が派生フォーム(ロッド、アックス、ガン)の活躍のさせ方が上手かった後だとどうしても稚拙に感じたのは否めない。

 また、同じスーツで別個体扱いできて出せる自由度の高かった電王のイマジンと比べるとファンガイアの設定やデザインは一回あたりの流用が効きにくく一年通して出せる怪人の数が少なく見えたのも一因であると言える。

 最後に巨大CGだがキャッスルドラン、ブロンブースター、パワードイクサー、キバ飛翔態と合わせて6回ほど販促回があったが、内訳は1回、1回、2回、2回とどれも少ないのは気になった。キバに始まった事ではないのだが大型玩具は予算と販促枠を使う割には大して活躍が少ないのは問題だとは思う(ゴーストくらいまでは毎年のようにあったので少ない出番の割には売上を出せてはいたと考えられる。)

 色々と問題点はあったキバではあるが、やはり紅親子が時を超えて繋がる物語、中盤以降の渡と大牙の深央の三角関係の話は面白かった。

 初期の登大牙の鈍感さがいい感じに話を拗らせていき、次第に深央に執着するあまり実の弟の渡と殺し合いをするほど愛憎劇を繰り広げる良いキャラをしていた。(演じる山本匠馬さんは後に『ハピネスチャージプリキュア!』で恋愛劇を繰り広げるブルーを演じており、つくづくニチアサ恋愛劇に縁の多い人だなと思う。)

 電王とディケイドに挟まれたキバや、クウガ龍騎に挟まれたアギトもそうだが、井上敏樹がシリーズ構成を務める作品はつくづく前後でインパクトの強い作品群に挟まれて不遇な扱いを受けがちである。

 そのせいか過小評価をされることが多いが、井上敏樹の書く作品はどれも濃くて変なキャラで導線を張る。そこから良い人であると視聴者に思わせて人間ドラマで引っ張っていき最後は綺麗に締めるという構成はファイズを含めた3作とも変わらないのでそこはやはりストーリー的に見てきて面白いし、よかったと思えた。

 『仮面ライダーキバ』やはり面白かった。

 いつか新しいキバの物語を見てみたい。