医療ドラマのエース的作品、『ドクターX』完走しました。
天才的な腕前を持つ外科医、大門未知子がオペで患者を救い腐敗した大学病院にメスを入れる痛快医療ドラマ。
誰も出来ないオペに颯爽と切り込み「私、失敗しないので」と宣言して鮮やかな手捌きでメインテーマが流れながら手術をこなしていく様は何度見てもたまらないしクセになる。
映画公開記念に予習復習兼ねて1から見ていった。ところどころ見ていない回があったり記憶から抜けてたりという部分もあるので一気見して有意義な時間を過ごせた。
シーズンごとに振り返っていこう。
シーズン1
初期のドクターXは黒い手術を請け負うという設定からか怪しげな女医というイメージを出すために初期の未知子は結構ダウナー系で覇気がない。クラブで踊るようなキャラなのも今となっては新鮮だ。
今と比べる未知子や神原さんが堂々と謝礼受け取ってたりとアングラ寄りの作風になってるのが面白い。
それでも手術着を着た未知子の目力は最初からホントに変わってないのが凄い。ヘアスタイルはシーズンごとに変わっていたりするが手術着の未知子は不変と言うべきか今と変わらない。米倉涼子のスタイル意地の賜物でもあるんだろうな。
どんな患者だろうと切って治す、未知子のその一貫性を見てあれだけ嫌っていた博美や加地たちが「お疲れ様でした」と各々で尊敬の念を込めて最終回で労うのが感慨深いんだよな。
でも好き勝手オペやった代償として各々僻地に飛ばされるのがリアル。未知子ほどの腕がなければ医局の外ではやっていけないのが一貫している。
シーズン1、『ドクターX』は途中から見始めたので最初の頃とのギャップが楽しめたシーズンだった。
シーズン2
蛭間と海老名の初登場、手術代が1000万クラスになったりと前作からパワーアップしてるのが分かる。
蛭間と海老名の掛け合いは最初から面白い。西田敏行のアドリブで親しみやすいキャラになってるのはズルい造詣してるよな〜って毎回思ってる。(そしてそれに毎回ハマらされてる。)
最終回でそれまで大学病院での金と権威に踊らされ続けた医者達が未知子の姿を見て自分が医者であることを思い出すのは恒例の展開だが、それでも金と権威に目が眩み続ける蛭間の悪辣さが際立つのが凄い。
加地や原がいないのは作品として物足りないのを実感する。やっぱりあの2人もいないと物足りないんだよな。
ドクターXは周りの医者や看護師みんなの力があって成立しているんだなと実感した。未知子だけだったら最終回のオペはヤバかった。
そして付きっきりでデモンストレーションやって辞表に一緒に名前を書いてくれる博美の相棒感もたまらない。
最終回のラストは1話の未知子の獣医の資格が伏線回収みたいに使われるのが意外なオチだった。(玉の輿失敗というギャグも含めて。)
シーズン2は前シーズンのよかったところを再確認させながらパワーアップしてるのを実感したシーズンだった。
シーズン3
前作からさらにパワーアップ。加地、原、海老名の揃い踏みや毒島、蛭間のゲスト出演などこれまでのいいとこ取りみたいなシーズンだった。
前述の加地、原、海老名の東帝トリオが揃ったのもこの頃からなんだな。なんか最初から3人セットみたいなイメージがあったので意外だった。
北大路欣也演じる天堂義人、神原さんの請求書攻撃にも動じずもっともらしい建前でレスするので格を保つタイプの院長キャラだった。
それはそれとして蛭間はやはり面白すぎる。スポット参戦でありながら西田敏行のアドリブによる魅力が多いのを再確認できる。
談合坂といい富士川といい西京大の医師はテキトーなオペする医師が多いのが目につく。こんなんでよく今まで医者やってこれたなと思うよ。まあ東帝大も似たようなもんか。
ラストの神原さんのオペは未知子にしては出血量メチャクチャ多かったし血圧ギリギリまで下がるしで流石に緊迫感あるオペだった。
シーズン1からべらぼうな金額の手術代を要求する神原さんの目的が未知子専用の外科病院を作ることだったのは驚いた。
それを結果的に宇宙旅行で2億円散財する未知子というオチも含めてよかったよ。未知子専用外科病院の道はまだまだ遠い。
シーズン3も面白かったです。
シーズン4
前作から一年空き画面のフィルターも変わって雰囲気が変化したシーズン。
今シーズンの特色は泉ピン子演じる久保東子と草刈民代演じる南幾子だろうか。
前者は蛭間を始めとした東帝大の「膿」を出し切るための蛭間の対抗的存在。 女帝感は出しつつも悪役では無かったのは最後まで一貫してた。
後者は東帝大イメージアップのための広報部長。難関手術を手際よく許可させるための存在。途中ブチ切れて久保東子らをビビらせたり見事な社交ダンス披露したりとロボットみたいな当初のキャラから化けたキャラになったと思う。
東帝大的には色々やりつつも蛭間を始めとする旧態依然とした組織であったため最後は崩壊したのは因果応報。
西田敏行演じる蛭間は悪辣でありつつも愛嬌があって請求書コントするのにも1番面白いのが再確認できた。請求書コントは2期で既に最適解を引いていたのが分かる。
メインキャラは加地が最初から、原は4話から、海老名は途中スポット参戦という構成。意外とこの3人、中々最初から揃わない。
最終章は未知子と博美の関係性にフォーカスしていた。このふたりは百合にはならないけど戦友感出てて好きなんだよな。互いに仕事を任せられるパートナーというか。
ラスト2話の手術は未知子でも治せるかどうかのギリギリのラインを突いてきたのは流石メインライターの中園ミホだ。サブではここまで攻めた構成は難しいだろうしメインだからこそ書ける領域といったところか。
シリーズ4も面白かった。
シーズン5
森本や鳥井の復帰、主題歌『force』の復活など原点回帰が意識されたシーズンだった。
最後の患者が未知子自身というのも医療ドラマの宿命的展開。それすらこれまでの「失敗しない」理由付けに繋げてるのが上手かった。
あらゆる事態を想定して術式を展開する、それが大問未知子の失敗しない理由だったんだな。
内神田のオペを精神力で乗り切る未知子は凄い。痛み止めも効力切れて気力と根性で耐え凌ぐ未知子は並大抵の精神力ではない。並の医者はここで卒倒してるので尚更未知子の凄さが際立つ。
ラストのキューバパートは、内神田のせいで大学病院と契約できなくなった晶さんが訴えられる前に半ば高跳びという形で海外に拠点を移動したってことでいいのかな?一時期死んだ未知子の走馬灯説なんてのもあった記憶があるが6期に続いてるのでそれはないだろう。6期には日本に戻ってきたのでほとぼりが冷める2年間海外生活してたのが実態かな。
未知子自身の手術ということで精神的にも未知子の成長に繋がってたり、博美や晶さんとの交流にもこれまでの患者としてオペされた積み重ねを経てたりとドラマとしては「あがり」を迎えたといって過言ではないと思う。
6期も7期も面白いけどこれらはボーナスステージみたいなものだと思ってる。未知子自身のオペというのはドラマとしてこれ以上ない盛り上がりだったのが大きい。
米倉涼子的には5期で最後にするつもりだったんだっけか。まあそういう総括的なラストではあったけど結局6期へと続いていったので。
諸々の感想としてはまず、加地もいた方が面白いよなっていうのが再確認できた。今期は全然出番なかったのでそこだけ見ると物足りない感はあった。ツッコミ役は必要だよ。やっぱり加地もいないとな。
蛭間と海老名の掛け合いコントも相変わらずの面白さだった。鳥井と猪股とのトリオで「3たかし」やるのが面白い。
今期の敵であった内神田は、演者の草刈正雄の風格で誤魔化されてはいるが肉を食べたい=私服を肥やしたいだけの守銭奴であったなと。未知子に対してもっともらしい理屈は並べていたがフタを開けてみればそれほど格のあるキャラではなかった。
5期は最終回の盛り上がりもあって総合的に見てトップクラスに好きなシーズンだった。
シーズン6
未知子自身のオペから2年後。今期は一貫して『ドクターX』のボーナスステージみたいなシーズンだった。
加地、原、海老名、蛭間が最初から最後まで通しているので「デーモン」呼び、「きんちゃん→守!原守!」「顔怖いよ」、「海老名(くぅん)」などいつもの掛け合いが毎回のように見れた。
印象的な回は中でも9話。未知子がかつて患った後腹膜肉腫ステージ3を患っている患者に対して、未知子が決意を込めた「私、失敗しないので」と説得するのが印象的。熱燗ぶっかけられてもかつて病気に罹った自分の心境を吐露して患者に立ち向かう勇気を持たせるシーンがBGMと相まって名シーン。
市村正親演じるニコラス丹下は未知子とは波長は合うものの、医療の未来のために金にがめついところがあり東帝大を存続させる金を得るためなら患者を死なせてもよいと考えているところが未知子と決定的に違うところだった。
最後は子供達の未来のために手術を受け、罪を償った後は世界中の子供達のために奔走するであろう姿が目に浮かぶ。
在来種と外来種という例えで日本と海外の医療産業を象徴しているのも印象的だった。
東帝大は結局赤字を立て直すことなく外来種に食われてしまったのは因果応報というべきか。
5期まで主題歌を担当していたSuperflyが6期から外されているのは製作陣と何かあったのだろうか。『ドクターX』の主題歌はやっぱりSuperflyが適任だと思うのでまた起用されたりしないのだろうか。
6期は一貫していつものドクターXが見れたシーズンだった。お約束の展開をただ繰り返すだけというのもありだよね。それをするだけのパワーが『ドクターX』にはあるよ。
シーズン7
コロナ禍に突入して感染症がテーマとなった作品にしてテレビシリーズ最終作。
ロケ地なども外科分院を用意するなどして撮り方が制限されており撮影の苦労が滲み出ていたのが分かる。
シーズン通して描かれていたのは「患者の感染症と外科医は相性が悪い」ということであろうか。どんな名医でも感染症の前には無力。一度感染者の手術場に入ってしまえば感染のリスクに晒されることになる。実際1話と最終回でその事実を思い知らされた。命懸けになるので緊迫感が今までの比ではない。患者を救うために未知子が死にかける展開は5期以来だがオペすれば治る病気と違い感染症は罹るか罹らないかというシビアなものであった。
流行りを取り入れるのが『ドクターX』の特徴だが昨今の感染症はまさに医療ドラマとして避けては通れない道であったと思う。
シーズンのゲストキャラとしては興梠、三国、鍬形、蜂須賀が挙げられる。
まず興梠はニューヨークでの回想でも見られた通り患者から逃げる医者であった。感染症罹りたくないから逃げる、難しいオペだから逃げる、といったまさにシリーズ通してよくいる典型的な小物の医者であった。5話のオペの失敗をナースに押し付けるのも酷かった。まあ最終回で逃げずに手術に立ち向かったことは褒めたい。
三国は目的のためなら自分の結婚すら利用する、まさに仕事に生きる女であった。3話での自分の病気のことはどこまで計画通りだったのかは気になる。
鍬形は典型的な裏切るタイプの医者であった。蜂須賀を裏切り蛭間を裏切り最後は目先の金のために逮捕されるのは因果応報であろう。
そして蜂須賀は今作を代表する人物。「感染バカ」と言われるくらいには感染症のことを人一倍考えていた。ただ序盤の必要なオペまでさせないのはどうかと思ったが。
終盤未知子とちょっとしたラブコメがあったりしたのも珍しい展開。告白されると思って分かりやすく動揺していた未知子は新鮮。本人にもその気はあったんだろうか。
ラストは「タコが食べたい」でいつもの寿司屋に行った未知子とサフィリスタン王国に行った蜂須賀ですれ違いが起きたのは2人の関係はビジネスパートナーであるということの裏付けだったのかなと思ったりする。
7期、感染症をテーマにしながらも間の回はいつも通りなテイストだったので6期同様ボーナスステージな側面が強いシーズンだった。
ドクターX、これにて全作全話完走しました!
いや〜毎回面白かった!ハズレになるような回が一つも無かったのも大きい。
視聴率からも分かる通り2010年代を代表する名作ドラマだった。
今度公開される映画が楽しみだ。